Evgeny Kissin - Beethoven, Piano Sonata No. 17 Op.31 No.2 'Tempest' (part 3 of 3)
この曲は演奏家泣かせかもしれません。テンペストというタイトルは弟子のアントン・シンドラーがこの曲と第23番(熱情)の解釈について尋ねたとき、ベートーヴェンが「シェイクスピアの『テンペスト』を読め」と答えたという逸話からついたとのことですが、この逸話そのものが捏造であった可能性は否定できませんし、仮に「テンペストを読め」といったからといってシェイクスピアの戯曲そのもの、あるいは登場人物をモチーフにしたとは限らないからです。つまり、音楽解釈が難しいのではないかと。
私個人としては、戯曲そのものや戯曲の登場人物をモチーフにしたものではないと思います。むしろ、ベートーベン自身の心象風景、感情の嵐を描いたものであり、仮に逸話通りの発言があったとしたら「テンペストの登場人物や物語に、私自身とリンクする部分がある」という意味で「テンペストを読め」だったのではないか。
ピアノソナタ17番は三つの楽章からなっていますが、第一楽章や第二楽章も魅力的です。第一楽章から通して聴くと第一楽章で起こった暗い感情と想いが第二楽章で一度は落ち着き平穏と安息が訪れるものの、第三楽章で激しさを増して痛みや葛藤を伴いながら再び沸き上がるというストーリー性が見えてくるように思います。
この感じはショパンのノクターン13番と似ているかもしれません。そう考えると、第三楽章だけを聞いて何らかの解釈をするのはおかしな話ですね、ノクターンだったら最期の部分だけぶった切ったりしないわけですから…。
というわけで、少々長くなりますが第一楽章から第三楽章までの動画を置いておきます。
冒頭5分くらい説明が入っています。英語です。
なんといいますか、色々書いていますが、私はこの曲をうまく言語化できませんし、できなくていいのかなぁなんて思ったりします。言葉にできない感情の渦。そこに巻き込まれて翻弄されることこそがこの曲の醍醐味のような気さえするのです。
「魔女のパンクリアス」は登場する人物が多く、シリーズでは初めてとなる一人称視点の作品です。
それぞれの出会いや感情、想いが絡まり合って一つの物語となる部分や、「切実なまでに想っていながらも伝えられない気持ち」「ある種の狂気と歪みを伴う愛」のような感情を含んだ(つもりの)部分が、この曲の悲壮感や切迫した雰囲気、さまざまな感情があざなえる縄の如く渦巻いているようすがマッチしていると感じたのでBGMとして使ってみました。