Nobuyuki Tsujii - Debussy - Suite bergamasque, Clair de lune


「永流堂奇譚」第七話のトレーラー動画BGMに使用したのはドビュッシーの「Clair de lune(月の光)」です。
ドビュッシーの代表曲の一つで、「ベルガマスク組曲」の三番目になります。テレビCMなどでもよくつかわれる曲なので、クラシックに詳しくないという方でも一度は聞いたことがある曲かもしれません。

ベルガマスクとはイタリア北部のベルガモ地方の舞曲のことで、ポール・ヴェルレーヌの詩集「艶なる宴」に収録されている詩「月の光」の一節に使用されている言葉だといわれています。
ベルガマスク組曲は全四曲で構成されていますが、「ベルガマスク」の元となった詩と同じタイトルを関する「月の光」は、組曲の中で最も重要な位置づけにある曲と言えるかもしれません。

吐息のように密やかでありながら、恋焦がれるような熱を持つメロディが甘く胸を締め付け、水晶のような煌めく音のアルペジオと、どこか幻想的な影が螺旋を描きながら舞い上がり、結んでは解け、解けては結び、やがて夜気の中に溶けてゆく。そんな一曲だと私は感じています。
月から降りそそぐ光を描写しているのではなく、月の下で人目を忍びつつ逢瀬を交わす恋人であったり、想い人を月に重ねて眺めながらその情熱を切々と訴えかけているというイメージです。

ドビュッシーがどのような想いで、どのような情景を描きながらこの曲を作ったかは定かではありませんが、ポール・ヴェルレーヌの詩「月の光」の影響を受けている可能性はあるかもしれません。ということで、ポール・ヴェルレーヌの詩「月の光」を掲載しておきます。


Votre âme est un paysage choisi
(あなたの魂は選ばれた風景)
Que vont charmant masques et bergamasques,
(魅惑的な仮面、ベルガモの衣裳)
Jouant du luth et dansant, et quasi
(リュートを奏で、踊りゆく)
Tristes sous leurs déguisements fantasques!
(幻想的な仮面の下に悲しみを隠し)

Tout en chantant sur le mode mineur
(恋の勝利や人生の成功を)
L'amour vainqueur et la vie opportune.
(彼等は短調の調べにのせて歌う)
Ils n'ont pas l'air de croire à leur bonheur,
(その幸福を信じる素振りもなく)
Et leur chanson se mêle au clair de lune,
(その歌は混ざりあう、月の光りに)

Au calme clair de lune triste et beau,
(悲しく美しいあの月の光の静寂に)
Qui fait rêver, les oiseaux dans les arbres,
(梢の鳥たちを夢に誘い)
Et sangloter d'extase les jets d'eau,
(すらりとした大きな大理石の噴水を)
Les grands jets d'eau sveltes parmi les marbres.
(うっとりとすすり泣かせるあの月の光に)


なお、この詩を元にフォーレも「月の光」という歌曲を作っています。

Véronique Gens, "Claire de Lune," op. 46, No. 2, Paul Verlaine

フォーレはバルダック夫人という社交界の歌姫の庇護を受けていましたが、このバルダック夫人は心身の作曲家であるドビュッシーを見出した人であり、後にドビュッシーの妻となっています。
バルダック夫人、フォーレとドビュッシー二人から求婚されたそうです。すごいよねー