HAENDEL : Lascia ch'io pianga

【歌詞と対訳】

Amida, dispietata colla forza d'abisso,
rapimmi al caro Ciel di miei contenti,
e qui con duolo eterno
viva mi tiene in tormento d'inferno.
Signor! Ah! per pieta lasciami piangere.

Lascia ch'io pianga la dura sorte
e che sospiri la liberata.
Il duol infranga queste ritorte
de' miei martiri sol per pieta.

奈落の力を持った無情なるアルミーダは,
懐かしき喜びの天上より私を奪い去り,
ここで永遠の苦しみをもった,
地獄の責め苦の中に私を生きたまま閉じ籠めている,
主よ!ああ!どうか私を泣かせてください

苛酷な運命に涙し,
自由に憬れることをお許しください,
私の苦しみに対する憐みだけによって,
苦悩がこの鎖を打ち毀してくれますように


「永流堂奇譚」第二話のトレーラー動画BGMに使用したのはヘンデルの「Lascia ch'io pianga(私を泣かせて)」です。オペラ「リナルド」で使われる、愁いを帯びた旋律が美しアリアで、声楽に親しんでいる方であれば一度は聴いたり歌ったりしたことがあるのではないでしょうか。
「リナルド」は11世紀のエルサレムを舞台にした叙事詩「解放されたエルサレム」を原作としたオペラです。主人公であるリナルドは十字軍の兵士で、アルミレーナという恋人がいました。二人は結婚を望んでいましたが、アルミレーナの父であり軍の総指揮官であるゴッフレードが「結婚は戦争に勝利してから」という条件を出していたため、結婚できませんでした。
このとき、十字軍はアルガンテ王率いるエルサレム軍と戦争状態で、エルサレム軍は劣勢状態にありました。アルガンテ王はその状況を打開すべく、自身の恋人である魔女アルミーダの魔法で総指揮官ゴッフレードの娘であるアルミレーナを誘拐。リナルドとゴッフレード、その弟エウスターツィオはアルミレーナを救出しに行くのですが…。というお話です。

このアリアが登場するのは第二幕。囚われの身になったアルミレーナに横恋慕したアルガンテ王がアルミレーナを口説き、アルミレーナがそれを拒絶するというシーンで歌われます。シチュエーション的には、自分に言い寄るアルガンテに慈悲を願い乞っているような印象ですが、歌詞を見ると「主」とあるように、アルガンテではなく神に祈っているのがわかります。

また、動画には収録されていない「Lascia ch'io pianga…」以前の部分は前奏的なもので、セリフに当たる部分ですが、ここでは魔法で自分を誘拐した魔女アルミーダの名前は出すものの、目の前にいるアルガンテのことは出していません。
このあたりに、「自分に気のある男の同情を引いてやろう」という打算、あるいは下心のようなものはなく、「あなたのことなんてなんとも思っていないわ」という徹底してアルガンテを拒絶するアルミレーナの気高さを感じ取ることができます。
アルガンテはきっと、このアリアを聴いて「この女は、無理やり手籠めにしたら自害するだろう」と感じたのではないでしょうか。アルガンテが「自分のものにならないなら壊してやる!」ってタイプじゃなくてよかったね。

ちなみに、アルミレーナを救出しに行ったリカルドはアルミーダの罠にはまってさらわれてしまうのですが、アルミーダはアルガンテという恋人がいるのにリナルドに横恋慕します。なんか色々ひどい。

「永流堂奇譚」はシリーズ紹介と第一話トレーラーのBGMにサティの「グノシエンヌ」を使っています。これは、私が個人的に「永流堂のテーマ曲」としているからです。
しかし、第二話のトレーラーでは「私を泣かせて」を使用しました。「象牙のウサギ」は苦境に立たされた母と子が主人公の物語で、歌詞の内容が母親である由美子の心情に近いと感じたためです。魔女は登場しませんが、アルミーダのような「無情な人」にとらわれていますしね…。

ちなみに、「詩」のコンテンツの中でこの曲を聴いて書いた「Lascia ch'io pianga」という詩を公開しています。