突然の訪問者

「――先生。山上先生!」
 水の中で聞くようなウワンウワンと響く声が、俺の事を呼んでいた。
ハッと目が覚めると、俺は見知らぬところにいた。
「先生! 気がつきましたか……よかった……。」
編集者が俺の顔を覗き込んで言う――俺は何が起こっているのかわからず、目だけを動かして周囲をうかがう。
そこは病院だった。
「なに……?」
「こっちが聞きたいですよ。原稿を取りに行ったら先生はキッチンで気絶してるし、床は水浸しだし……。」
「鍵は……?」
「先生、僕合鍵預かってるでしょ。それで入ったんです。急性心不全だそうですよ。もう少し発見が遅ければヤバかったそうです。」
「……あの爺さんは……。」
「お爺さん? 先生のほかは誰もいませんでしたよ。鍵もちゃんとかかってましたし。しばらく入院だそうです。死なずに済んだんですから、僕に感謝してくださいよぉ。じゃ、また近いうちに来ますんで。」
 編集者はそういってニコニコ笑う。手にはちゃっかりと仕上がった原稿データの入ったCD-Rを持っていた。
目だけで編集者を見送ると、俺は真っ白な天井を見上げた。

 そういや、死神は砂時計を持っていて、そいつが人間の寿命を現してるなんて話もあったなぁ。
あの爺さんが……はは、まさか……ね。


「終」

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