六花の朝

私が聞くと彼女は首を小さく縦に振った。きっと彼女は、足跡が誰のものかすぐに察することができただろう。季節外れの花が足跡の主は誰であるかを雄弁に語っているのだから。
そしてそれは、その主の心が揺らいでいることも同時に語っている——その花が何を表しているかはまではわからなかったかもしれない。ただ、私の心が揺らぐ何かがあったのだろうと気に留めてくれたのは確かで、それだけを理由に私の足跡をたどってくれたのも確かだ。

私には、その事実だけが全てで、それだけで十分だった。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
私はそういって立ち上がると、安心させるように微笑みかける。彼女の表情に安堵の色が広がり、蕾がほころぶような笑顔が浮かんだ。
なんと美しく愛らしい花なのだろう。もし許されるなら、この花を私だけのものにしたい。手を伸ばしてそっと引き寄せ、柔らかな髪に指を通し——。
だが、私にその勇気はない。いたずらに手を伸ばし、花を手折ってしまったら、何もかもが終わってしまう。私にできることは、この花が美しく咲き誇れることを祈りながら、ただ見守ることだけなのだ。
私はケープを取ると彼女の細い肩にそっとかけ、首元までしっかりと覆う。
「戻りましょう。風邪をひいてしまいます」
彼女は小さくうなずいた。

私は彼女を先導するように来た道とは別の道——雪に埋もれた土の上に、新たな道を作るように歩き始めた。彼女が歩きやすいよう、歩幅は狭く、ゆっくりと。
「あの」
しばらく無言で付いてきた彼女が小さな声で言った。
「……もしかして、歩幅が広すぎましたか?」
「いえ、そうじゃなくて……どうして、来た道を戻らないのかと思っただけです。ミードさん、雪の上を歩いているから足が濡れているじゃないですか。元の道をたどれば、濡れずにすんだのに」
「……ただ、雪の上を歩きたかっただけです」
私はそう答えると再び歩き始めた。後ろから少し遅れて聞こえる彼女の足音は、近づいてくる春を思わせるような、軽くて心地よい音だった。