六花の朝

戻ったころにはすっかり夜が明けていた。朝日に当たって溶け始めた雪は、水を含んでキラキラと輝き、まるでダイヤモンドのようだ。
「あ、おねいちゃん。おかえりなさい」
「スイスイ!」
湖畔の方から歩いてくる私たちの姿を認めたスイスイが、ゼンマイ仕掛けの羽根をパタパタと動かしながらこちらに向かってくる。乙女はそれを迎えに行くかのように私の横を走り抜けた——かと思うと、何かを思い出したかのように振り返る。
「花でしょ!」
「花?」
「違う道を歩いた理由! 元来た道に咲いてる花を踏みたくなかったから!」
彼女は難しいパズルを解いた子供のような笑みを浮かべてそういうと、私がこたえるのも待たずに踵を返し、春風のように走り去っていった。
長い髪が冷たい風の中を舞って冬の朝を鮮烈に彩るのを見ながら、私は小さな声で言う——まったく、あなたには叶わない。と。

冬は嫌いだ。
遠い昔の記憶が蘇るから。
けれど、あなたと一緒なら……。

私は冬を好きになれるかもしれない。

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