いれずみ

 女のセックスは不思議だった。
特別技巧的でも、淡白でもない……つまり、サービスをするわけでもなければマグロでもない、ただ自然に求め、受け入れる。そう、受け入れるという言葉がぴったりだと思った。
 俺が果てると同時に、女も果てた。
言い様の無い感情と、心地よい疲労の波の上に浮かびながら、俺は女を腕に抱いたまま天井を見上げる。
女は俺の刺青を愛撫するように、指先でなぞっていた。
「煙草、吸っていいか?」
 女はこくりと頷く。
俺は上半身を起こし、煙草に火をつけると、煙を大きく吸い込んだ。
「あんた、変な女だな。」
 細くたなびく紫煙が、ゆっくりと天井まで伸びるのを眺めながら、俺は言った。
その言葉に気を悪くしたようすも見せず、女は小さく肩をすくめた――「そう?」
「普通の女は、これを見ると怖がるからな。」
「別に怖くないわ。だってあなた、ヤクザじゃないでしょ? 綺麗じゃない。」
 俺は動揺した。
俺はこの女に自分の素性どころか、名前すら教えた覚えは無い。この刺青を見て怯えた女たちもそうだ。だから、彼女たちは俺の事をヤクザだと勘違いした。
けれど、この女は勘違いしなかった。それどころか、さらりと「綺麗」と言ってのけた。何者なんだろう、この女は。
「ねぇ、もっとじっくり見てもいい?」
 年端もいかない少女のように小首をかしげる女――俺は、ほんの少し口元が緩んだ。 吐息が感じられるほど顔を近づけ、女は俺の刺青をしげしげと観察する。子犬を初めて見る子供のように。
「痛かった?」
「少しだけ。」
「なぜ刺青をしたの?」
 なぜ――?
またしても俺は動揺した。なぜ? なぜ俺は刺青を入れた? 虚勢を張るため? 違う、そうじゃない――。
「色々あっただけさ。」
「ふーん。」
 曖昧な答えに、女は興味なさそうな声で、そう応えただけだった――自分で聞いておきながら興味のなさそうな返答をする。ますます不可解な女だと思ったが、今は追及されないことが嬉しかった。
なぜなのか、俺にもわからなかったからだ。