みんなで卒業しませんか?


コンコン……コンコン……。
 ドアをノックする音で僕は目覚めた。
窓の外には光が溢れ、木々がそよぐ音と、鳥の鳴く声が聞こえる。
ノックの音はまだ続いていた。
「……はい。」
「おはようございます。お布団、上げさせていただいてよろしいでしょうか?」
布団……朝……?
死んでないっ!
「あと十分……」
「……ふごっ!」
僕の後ろで、幸せそうな表情を浮かべた二人が呻いた。

 結局、僕らは誰一人死なないまま朝を迎えた。
それぞれ何かを考えながら朝食を済ませ、その微妙な空気を抱えたまま、電車に乗る。
もう誰も、卒業のことを口にしなかった。
 東京に向かう「あずさ」の中で、最初に口を開いたのはソーダさんだった。
「卒業証書を貰い損ねましたなぁ……。」
僕はつま先に向けていた視線を、ソーダさんの顔に向ける――彼は、穏やかに微笑んでいた。
「きっと、単位が足りなかったんですね。」
「やり残した課題があるから、落第したのでしょうね。」
 僕とソーダさんは、お互いに笑った。なんだか不思議な気分だった。色んなことがどうでもいい、そんな気持ち。
気づいたら、僕は泣いていた。笑いながら泣く。そんな器用なことが出来ることを初めて知ったような気がする。そのくらい長く、僕は泣くことを忘れていたんだ。
 その時ミチルが、大きな声で「あっ!」と叫んだ。
彼女の手には白いケータイが握られており、彼女はそれを見て困ったような表情を浮かべている。
「どうしたの?」
 ミチルはケータイの画面を僕に見せて、この世の終わりのような表情を浮かべた。
画面はメールの受信ボックスで、昨夜から今朝にかけて、両親からのメールが何通も入っていた。
「どうしよう……きっと怒ってるよ。」
「中身は読んだ?」
 僕が問いかけると、ミチルはぶんぶんと首を振った――「怖くてまだ見てない。」
僕は彼女の手からケータイを受け取ると、未開封のメールを古い順から見ていく。
確かに、彼女の両親は怒っていた。最初は――けれど、時を経るにつれて、怒りは薄れ、心配と自責、彼女の安否を気遣う内容へと変化して行った。
表面上は怒っているように見えても、文字の隙間から彼女に対する愛情がにじみ出ているメール……両親のいない僕には、ほんの少し羨ましい。
「大丈夫。お父さんもお母さんも、怒ってるんじゃないよ。ものすごく心配してる。きっと、二人は不器用なだけなんだよ。」
「……でも、なんだか帰りにくいなぁ。」
 ミチルはメールを見ながら憂鬱な表情を浮かべる。
その表情は今にも泣き出しそうで、見ているこっちまで泣きたくなるような表情だった。
見るに見かねたソーダさんが、ミチルの両手をぎゅっと握って言った。
「よし、私が何とかしましょう!」
「ほんと?」
 ミチルの表情がぱっと明るくなる。
ソーダさんがミチルを安心させるように大きく頷くと、彼女は彼の首に思い切り抱きついた。
「ありがとう! おじいちゃん!」