たまご

 ふと気づいたとき、僕たちは見知らぬ場所に立っていた。
「どうしよう、道がわかんなくなっちゃったぞ。」
ヤスベエが呟くと、マキオが静かに頷く。自分も分からないという意味だ。
懇願するような表情の二人に、僕は首を振った。僕にもわからない。
あたりはすでに薄暗く、青みがかった紫色の空に白い月が浮かんでいた。
「とりあえず、分かるとこまで戻ってみよう。なんとかなるよ。」
 マキオはそういうと、元来た方へ歩き始める。
僕はシロを抱き上げると、マキオの後の後へついていった。
しばらくの間黙って歩き続ける。マキオは本当に来た道を歩いてるんだろうか? きっと違うと思う。ヤスベエもきっとそう思っている。いや、もしかするとマキオ本人もそう思っているかもしれない。
けれど、僕たちは歩き続けた。歩いていないと不安だったから。
 あたりは段々暗くなって行き、やがて月明かりだけが頼りになった頃、ついにヤスベエが座りこんだ。
「ヤスオ、立てよ。帰れなくてもいいのか!」
「もう疲れたよ。それに、マッキーだって道わかんないんだろ?」
マキオの表情が歪む――やっぱり、マキオも道が分かっていなかったんだ。
僕もいい加減疲れていたのでヤスベエの隣に座る。やぶ蚊が耳元を飛んでいった。
「ちょっと休憩しよう。なにかの本で読んだけど、こういうときは動かずに、見つけてくれるのを待ったほうがいいんだって。」
僕がそういうと、マキオは僕たちの前に膝を抱えて座った。
 シロを地面に下ろしてやる。暗い林の中でもシロの姿だけははっきり見えた。
シロは僕たちの真ん中に座ると、黄色い目で僕たちの顔を見回す。まるで、僕たちの不安を感じているように。
 咳き込むような音と、鼻をすする音が聞こえる。
膝に顔を埋めたまま、マキオが泣いていた。
「ごめん。俺、余計迷っちゃったかもしれない。ごめん。」
マキオのしゃくりあげる声が大きくなると、つられるようにヤスベエまで泣き始める。僕は一緒に泣いたら、みんな不安に押しつぶされてしまうと思うと泣けなかった。
 ただ、二人をどうすればいいか、これからどうすればいいかは思いかず、途方に暮れる。
シロは細い首をもたげ、僕たちを見回すと、その丸い目に申し訳なさそうな表情を浮かべた――表情? 鳥に?
僕は半分寝ぼけたような頭を少しでもスッキリさせようと思い、空を見上げる。光が、西から東へ横切った。
 光が木陰の向こうへ消えたとき、シロがスッと立ち上がった――まるで、何かを見つけたように。