たまご

「ほら、あれだよ。」
 ヤスベエの指差した先は、橋の下の藁や木の枝が固まって浮かんでいる所だった。
僕はその暗がりに目を凝らす――キラリと何かが光った。
「よし、行ってみよう。」
マキオにも何かが見えたらしい。彼は橋に向かって段々狭くなる川原を歩き始めた。
 橋の下はひんやりと涼しく薄暗い。ほんの少しの間、明るさに目が追いつかなくなる。
ようやく焦点が合わせられるなると――確かに、ヤスベエの言った「恐竜の卵」が、川岸より少し離れたところに沈んでいた。
表面がデコボコした卵型の物体は緑がかった黒色。例えるなら、アボカドを一回り大きくような感じのものだった。
「石には見えないな……。」
 マキオが言った。
僕も最初は、ヤスベエが石を見間違えただけだと思っていたけれど、こうして見てみると石には見えない。
「どうやって拾う?」
「木の棒でこっちに転がせないかな。」
 僕は水に浮かんでいた木の棒を拾い上げて、腕を精一杯伸ばす。どう見ても届きそうにないので、水をかき回してみたが、こちらに転がってくる気配はない。
「だめだ。全然動かないよ。」
マキオは腕を組んで唸ると、ヤスベエの方を向いて言った。
「ヤスオ、ズボン脱いで拾いに行けよ。」
「えー、やだよ。女子が通るかもしれないじゃん。」
「おいおい、お前な――」
「じゃあジャンケンにしよう。」
 危うく口喧嘩になりそうな雰囲気になったので慌てて間にはいる。二人は「そうだな。」といって頷いた。
ヤスベエは気づいていないけど、マキオは必ずグー、チョキ、パーの順番で出す。
今の雰囲気だと、マキオが負けたらきっと不機嫌になるから、マキオに勝たせてあげないと……。まったく、気を使うのも大変だなぁ。
「それじゃあ行くぞ。」
「じゃーんけーん」
「ほい!」
 結果はグー、グー、パー……ヤスベエの一人勝ち。仕方ないので引き分け勝負にわざと負けた。まったく、ヤスベエのヤツちょっとは空気読めよな……。