たまご

「ホントだよマッキー。橋の下にあったんだ。あれは絶対、恐竜の卵だよ!」
 ヤスベエは秘密基地に来るなりそう言った。余程急いできたんだろう。ランニングシャツの胸元が汗でびっしょりと濡れている。
マキオはさっき捕まえたばかりのカブトムシを、虫かごから薄汚れた水槽に移し変えようとするてを止め、僕のほうを振り向いた。
僕とマキオとヤスベエは同じ小学校の同じクラスの友達。
まぁ、子供が少ない田舎の学校だから、クラスは一学年につき一つ、それも多くて十人程度だから、同い年のやつはみんなクラスメートなんだけど。
僕たち三人は幼馴染みたいなもので特に仲が良く、休みの日や放課後はほぼ毎日、秘密基地――学校の裏手にある伐採林の奥にある廃屋で過ごしている。
その習慣は夏休みでも例外ではなく、宿題もそこそこにやっつけては、虫かごや網を持ってここに集合というのが日課だった。
 この日、夏休みも中盤を迎えようとしていた。
親の目を盗んで隠しておいたマンガも何度読み、蝉も捕り飽き、アイスやお菓子を買う軍資金も心もとなくなる時期……つまり、長くて暑い、怠惰な生活に飽き始める時期。
 僕はキヨシの方に目をやる。彼は日焼けした顔を上気させ、まるで全身から湯気が立っているかのように見えた。
「ホントだよ、キヨシ。黒くてこのぐらいの大きさだった。」
彼は両手で楕円形を作る――長さ十五センチくらいの楕円形。恐竜の卵だなんて信じられないけれど、ただの石ころとしても十分大きい。大きな卵形の石……秘密基地の財宝に相応しいと思った。
「早く拾いに行かないと、誰かに取られちゃうよ!」
 マキオは水槽にきっちりと蓋をすると、大きく頷いて立ち上がる。拾いに行こうという合図だった。