たまご

 その日、僕たちは時間も蝉取りも何もかも忘れて、卵が割れる瞬間……生まれてはじめて見る生命誕生の瞬間を見逃すまいと、箱の前にじっと座って時を過ごした。
やがて空が茜色に染まる頃、石の卵に小さな亀裂が走った。
「きた!」
「産まれる!」
 僕たちはそれぞれ拳を握り締め、石の卵を凝視する。
亀裂は徐々に広がり、やがて――。
「産まれたー!」
 僕は歓声を上げた。ヤスベエやマキオも、互いに手を取り合って喜び合っている。
卵から生まれてきたその生き物は白い翼を広げると、悠々と顔を上げた。産まれたばかりだというのに聡明な輝きを持つ瞳をした、大きな鳥だった。

 僕たちは真っ白い外見から、そいつを「シロ」と名づけることにした。
シロは産まれてすぐ歩き始め、箱から抜け出すと地面をぺたぺたと歩き回る。鳥なのに飛ばないのは、きっと鶏の仲間だからなんだろう。
 僕たちはシロを抱き上げると基地の外へ飛び出し、雑木林の中を縦横無尽に駆け回った。
艶々とした葉っぱ、名前も知らない花、太いクヌギに停まっている虫……。僕たちの知っている世界の全てを、シロに全部見せてやろう。