たまご

 それから毎日、僕たちは秘密基地で石の卵を眺めた
石の卵はいつも濡れたような光沢を放ちながら、箱の中で静かに眠っている。全く変化のないまま時間が過ぎた。
「やっぱり、ただの石なんじゃないか?」
全員が薄々そう考えていた事に気づき、僕たちは落胆する。
それ以来、ヤスベエとマキオは石の卵に対する興味を無くしてしまったようで、それを眺めているのは僕一人になってしまった。
 石の卵を拾ってから五日目、僕はある変化に気づく。
「ヤスベエ、ちょっと見てみろよ。」
僕が呼ぶとヤスベエは隣に膝を付いて箱の中を覗きこんだ。
彼は石の卵を一目みると、基地の外で蝉を探していたマキオを呼ぶ――「マッキー! 大変だ!」
マキオは手に持っていた虫取り網を放り投げて僕らのそばまで来ると、大きくため息をついた。
「なんだよ。誰か怪我でもしたのかと思った。」
「違うんだよ。ほら、これ……。」
 ヤスオが手で藁をどける。真っ白に変色した石の卵が現れた。
マキオは目をまん丸にして驚いくと、すぐに膝をついて卵にそっと触れる。――「なんだか熱いぞ。」
僕とマキオも一斉に卵を触る。確かに、石の卵は温かかった。
「腐ったんじゃないのか?」
「でも、変な匂いはしない。」
 マキオとヤスベエが言う。
僕は、次第に高まる胸の鼓動を抑えながら言った。――「産まれるんだ。」