「結局、それ以来シロは消えてしまった。次の日もその次の日も、僕たちはシロを捜したんだけど、どこにもいなかった。そうこうしてるうちに夏休みも終わって、学校が始まった。」
陽子は透明な光を持つ黒い瞳で僕を見上げ、まるで無垢な少女のように話を聞いている。
丸っこい目がほんの少し、シロに似ていた――本人には言えないけど。
「その年の冬、雑木林がなくなってね。僕たちの秘密基地も跡形なく消えた。ほら、あそこに見えるマンション。あのあたりが雑木林だったんだ。」
僕が指差すと、陽子は立ち上がって川の向こうに目をやる。
少しくすんだ灰色の壁が、早春の光の中で眠っているように見えた。
「ねぇ、シロってなんていう種類の鳥だったの?」
「それが、変なんだ。」
陽子は小さく首を傾げる。――「図鑑に載ってなかったってこと?」
僕は首を振ると、足元に転がっていた小さな石を投げる。ポチャンという音と、小さな水飛沫が上がった。
「その時一緒に迷った井上と山田……まぁ、マキオとヤスベエなんだけどさ。この前、同窓会で久しぶりに会ってね。終わってから飲みに行ったんだ。その時、シロの話になったんだけど……。」
少し冷たい風が吹いた。花の香りが薄っすら漂っている。
「僕は、シロは鳥だと思ってた。ヤスベエはゲームに出てくるようなドラゴン、マキオは猫だって言うんだ。」
「それって……。」
「そう、僕たちはみんな同じシロを見てたけど、そのシロはみんな違っていたってわけ。変な話だろ?」
陽子は小さく頷いたあと、もう一度川のほうに視線を戻し、やがてクスクスと笑い出した。
「マキオ君って面白いのね。猫が卵から産まれるわけ……。」
彼女の言葉は最後まで続かなかった。川のほうをじっと見つめている。
「どうしたの?」と聞くと、彼女は川を指差す。
アボカドを一回り大きくようなものが、穏やかな水底に沈んでいた。
終わり