偽天使の厄日

『今朝……市の住宅で、親子二人の遺体が発見されました。近隣住民の話によると、この親子は母親と息子の二人暮らしで、数か月前に母親が病気で失業して以来、経済的に厳しい状況にあったそうです。遺体の状況などからも疲労や寒さによる衰弱死や凍死ではないか考えられています。また、調べによると室内には鶏の死骸が一つと鷹の羽根が一枚残されていたことが分かっており、関係を調査中です』

 ジョルジオは車の後部座席から街頭の巨大ビジョンから流れるニュースを眺めながら小さくため息をつく。それは、あの少年の死に対する悲嘆などではなく、一連の騒ぎを思い出した精神的な疲れによるものだった。彼は、人間の生き死になどに関心はない。
 信号が青に変わり車が発進する。車窓の風景は巨大ビジョンを備えた商業ビルから、青いイルミネーションで作られたツリーやトナカイが立ち並ぶ広場に変わった。楽しそうに微笑む若い男女や家族連れが数多く行き買う様子を見ていると忌々しい気分になる。
 まったく、人間は愚かな生き物だ——小さく呟いたジョルジオは視線を前に向け、長い脚を組み直して考えた。
結局、乳母とは何だったのか。と。

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