偽天使の厄日

「見ろ!」
 男は威厳のある声で少年に言うと、左手につけていた白い手袋を外し手のひらを天井に向ける。手のひらからテニスボール大の光の玉が一つあらわれ、シャボン玉のようにゆっくりと浮かび上がった。
「俺の前で泣くな」
 そういいながら拳を握り、もう一度開く。新たな光の玉が生まれ、またフワリと浮かび上がる。その玉はまるで小さな太陽のように周囲を照らし出すだけではなく、凍り付いた空気を温めた。
 光の中に男の姿が浮かび上がると少年は小さく息を飲む。ケープの付いた赤い長衣、サンタ帽からわずかにのぞく銀色の髪、白いヒゲこそ生えていなかったが、それはまるで——。
「サンタさん?」
「いや、俺は……」
 少年の問いに答えようとしたジョルジオははたと口をつぐむ。何をもってそう思われたのか理解できなかったが、そう思われているのなら異教の子供相手にわざわざ名乗る必要もないだろうと考えたのだ。それに……。
「ねぇ、サンタさんでしょう? サンタさんだから、魔法が使えるんでしょう? 僕がお祈りしたから、来てくれたんでしょう?」
 目をキラキラと輝かせ、少年は矢継ぎ早に質問する。少年の衣服は薄汚れ、体は痩せ細っていた。髪はべたつき、目は落ち窪んでいる。年の頃は五歳くらいといったところだろうか。
「サンタさん、お願いです。僕、プレゼントいりません。だから、ママを元気にして」
 少年は抱きしめていた鶏を床におろし、正座をして姿勢を正すと両手を胸の前で組んで祈るようにいった。祈り。それはジョルジオにとって、決して無視できないものだ。
「まさか、こんなことになるとはな……邪魔するぞ」