偽天使の厄日

 少年はしばらくの間、窓から雪を眺めていたが、ガラス越しに忍び寄る冷気で体が震えはじめたため、毛布にくるまって体を温めようとした。暖房をつけたいと思うものの、どうすればつけられるかわからない。照明はスイッチを入れてもなぜかつかなかった。
 毛布をかぶっていてもまだ寒かったため、少年は母親の布団に潜り込んで温もりを求める。あまり温かくなかったが、甘やかなシャンプーの香りがしてトロンとした懐かしい気持ちになった。
 思わずウトウトし始めたその時、玄関チャイムが大きな音で鳴る。少年は飛び起きて満面の笑顔を浮かべた。
「ママ、チキンがきたよ!」
 母親は相変わらず何も答えなかったが、少年は返事を待たず小走りで暗い廊下を進み、玄関ドアにかかったチェーンを背伸びしながら外す。上下二つ付いたロックを開け、ドアレバーに半ばぶら下がりながら体重を使ってドアを開けると——。
「うわぁぁぁっ!」
 身長二メートルを超す大男が、鶏をさかさまに持って立っていた。鶏はグウグウと低い声を立てて鳴き、羽を大きく二回羽ばたかせる。少年は思わず叫び声をあげながら尻餅をついた。
「メリークリスマス」
 はるか上空から低く滑らかな声が聞こえた。外からの光で逆光になっているため顔は見えないが、白い飾りがついたサンタの帽子をかぶっていることはわかる。
「メ、メリークリスマス」
 少年が怯えながらそう答えると、大男は少年を一瞥した後、真っ暗な部屋の中に視線を巡らせた。それはまるで暗さなど感じていないかのようだ。
「これはどういうことだ。なぜ子供が一人だけでいる? 乳母はいないのか?」
「うば?」