偽天使の厄日

 少年は半ば転げるように母親の元に駆け寄ると、ほんの少し前まで冷えていた体にすがりつく。その体は骨ばって乾いていたが、たしかに温かかった。
「今夜一晩限りだ。せいぜい楽しむがよい。まぁ、お前たちにはそれで十分だろう」
 抱きしめ合いながら涙を流す親子に何の興味も感傷もないといった口調で言うと、ジョルジオはベランダに続く掃きだし窓を開ける。雪はさらに強くなり、床や柵に薄っすらと積り始めていた。
「サンタさん!」
 少年に呼び止められたジョルジオは体ごとゆっくりと振り返る。
「俺はサンタではない」
強い冷気をはらんだ風がケープをはためかせたかと思った瞬間、一対の巨大な翼が優美な弧を描くように、その背から広がった。
「さらばだ、人間」
 その言葉が終わるや否や強靭な翼が大きく空気を叩き、降り積もった雪が地吹雪のように舞い上がる。白く塗り潰された視界が再び開けた時、ベランダにはもう誰の姿もなかった。