偽天使の厄日

 ジョルジオは深いため息をつきながらそう言うと、光の玉でほんのりと明るくなった廊下を進む。わずか数歩でたどり着く小さなダイニングキッチンに隣り合うように配置された和室には布団が敷かれており、少年の母親が入り口に背を向けるように横たわっていた。
「そこで待っていろ」
 ジョルジオは少年にそう告げると、暗い和室の中に一人で入り、横たわる母親の上にかかっていた薄い布団をはぎ取る。その布団が冬の体を温めるのに不十分であることは、暑さや寒さを感じることがないジョルジオにも理解できた。
「まだ数時間といったところか」
 すでにこと切れた母親の体はすっかり冷たくなっていたがまだ固まってはいない。少年同様——いや、少年以上に母親の体はやせ細り、体の表面は乾ききっている。はっきりとした死因は不明だが、貧困と飢えと寒さが彼女の命を縮めたのは間違いない。
「女。まだそこにいるのだろう?」
 ジョルジオは死体のそばに跪き、耳元に顔を寄せて話しかける。それはまるで、生者に語りかけているかのようだった。
「よく聞け女。俺はこれから、我が主より賜った力で福音を示す。本来ならこれは信徒にしか見せぬ秘術なのだ。異教の身でこの恩寵にあずかれることを感謝するのだな」
 そう言って死体から体を離すと、横向きに寝ている母親を仰向けにし、両手を胸の上で組ませる。さて、次は——。
「鶏をここに」
 心配げな表情で和室の中をのぞき込んでいる少年に言う。少年はごくりとつばを飲み込みながらうなずき、早足で鶏をつかまえに行く。