ネズミ

 夏休みに入ると、オレはアルバイトを始めた。
バイトが休みの日は、暇を見てネズミのところに行く。
最近読んだ本や、公開中の映画、バイトのこと、いろんなことを話して、オレたちは親友と呼べるくらい仲良くなった。時々、面会時間が過ぎても居残っていたのがばれて、看護婦さんに叱られたりもしたが……まぁ、大目に見てもらうことのほうが多かった。
 ネズミのギプスはもう外れていたけれど、リハビリや夏風邪をこじらせたとかなんとかで、入院したままだった。
ネズミは、学校にいたときより明らかに痩せていたけれど、病院食の量が少ないのと、夏バテ、運動していないせいで筋肉が痩せてしまったから細くなったんだといっていた。
 八月、ちょうどお盆のシーズン、バイト先が休みになったこともあり、東北にある母親の実家に帰省することになった。
オレはお土産のリクエストを聞くために病院へ行った。
ネズミはあまり体調が良くなさそうだった。なんでも、酷い夏バテらしい。
肝心のリクエストは「石井君が元気に帰ってきて、いろんな話を聞かせてくれること」だそうだ。ホントに変なヤツ。
 帰省から戻ると、途端にバイトが忙しくなった。
オレは朝から晩までバイトをして、毎日クタクタになって帰った。ネズミの夏バテは良くなっただろうか?
 ひぐらしが鳴きはじめる頃、ようやくバイトが落ちついた。明日はやっと休める。ネズミに会いに行こう。
そう思いながら一日のバイトを終え、熱い湯船に浸かっていると、電話が鳴った。
母ちゃんが電話を取ったらしく、遠くで「ハイ、ハイ」という声が聞こえる。
オヤジの実家かな?と思ったそのとき、オレの名前が呼ばれた。
 電話……? オレに……?
相手は誰だろうと思いながら、急いで体を拭くと、オレは受話器をとる――「はい、石井です」
受話器の向こうから聞こえた声に、オレは足元がぐらついた。

ネズミが死んだ――。