ネズミ

「フェラチオ、カツサンド買ってこい。」
 二時間目と三時間目の合間に、ミツオが命令した。
オレはミツオを見下ろして、頷く――中学の頃、ミツオはオレよりでかかったけれど、高校に入ってオレは身長が二十センチ伸びた。今ではオレの方がミツオより頭一つくらい大きい。
 オレは財布をもって廊下に飛び出し、息を切らせて購買へ駆け込んだ。 カツサンドは人気商品で、早めに買っておかないと売切れてしまう――この日も、すでに二つしか残っていなかった。
カツサンド一つ二百三十円。オレの毎月の小遣いは五千円、ミツオに散々たかられたせいで、もう二千円しか残っていない。
二つあるのに一つしか買わなかったとバレたら、ミツオは怒るだろう……けれど、二つ買うと小遣いがかなり減ってしまう。もし、次の小遣い日までに金が無くなったら「仕事」をさせられるに違いない。
 オレが財布とカツサンドを交互に眺めながら、二つ買うべきかどうか悩んでいると、横から白い手が伸びて、カツサンドを一つ摘み上げた――成田さんだった。
「石井君、カツサンド、なくなっちゃうよ?」
 成田さんはいかにも女の子らしい声でそういうと、小動物のように愛らしい目を細め、ニッコリと微笑んだ。
オレは慌てて最後の一個を取ると、お金を支払う――成田さんの可愛さが気になるより、自分の財布の損害が少なくて済んだことに安堵してしまうことに若干の情けなさを感じた。
 オレが袋に入ったカツサンドを受け取って教室へ向かうと、成田さんはオレと並んで歩き始める。
オレは、成田さんと二人きりで会話できるチャンスを喜ぶより、ミツオに見つかったら何かされるんじゃないだろうか……という不安が大きく、あたりの気配をうかがうようにあるいた。幸い、休み時間も半分が過ぎていたこともあり、購買付近は人影もまばらだった。
「石井君……横山君と仲いいの?」
 成田さんの突然の問いかけに、オレは驚いた。
オレがミツオと……?
はたから見れば、オレはミツオとしか話さないし、そんな風に見えるのかもしれない。けれど、オレはミツオの友達じゃない。もちろん、同類でもない。そうでありたいと願っている。
「いや……ただ、小中で一緒だったから……。」
「そっかぁ……。」